絵画当て

 ここでは到底信じられないと思うが、ある世界では技術発展によりロボットが人間のように絵を描けるようになったところがある。これはその話だ。

 ロボットが絵を描けるようになってから、インテリアショップで数々の絵画が売られているように庶民でも絵画を飾る習慣がついた。そこそこの生活をしている人であれば、壁には1、2枚は絵が掛けられていた。誰が描いたかはともかく、ここよりも芸術が身近な世界ともいえる。

 さて、そこにあるA都市では絵画専門の店が多く存在していた。今日も朝から開店のために窓を拭いたり、看板を出すところが見られる。また、その道には芸人が路上パフォーマンスのために準備をしている。A都市では道楽で人々の暮らしを豊かにするといったスローガンを掲げており、認可なしで誰でも路上パフォーマンスをできる環境であった。もっとも、誰でもできるため時たま悪趣味なパフォーマンスをする芸人もいたそうな。

 そんな街で用事もないのに歩いている2人の男がいた。まだ人が少ない時間帯に芸術の知識をひけらかしている田中と、それを興味なさそうに聞いている須藤だ。2人が歩いていると、布がかけられている2つのキャンバスを路上に置かれているところを見かけた。2人は気になってそこへ近づいてみると、芸人の中年の男に話しかけられた。

「おっ、お兄さん達興味あるかい?」

「これは何のパフォーマンスですか?」須藤は聞く。

「ああ、パフォーマンスってほどでもないんだが、絵画当てを開催しようと思ってな。どの絵がロボットが描いたものなのか当てればプレゼントをGET!どうだい、やってみないかい?」

芸人の言葉を聞き、意気揚揚と田中は挑戦することを宣言した。この時間に路上でパフォーマンスをするのは多くはないため、気になった通行人がそろそろと周りに人が集まってきた。

かけられていた布がはずされ、キャンバスに描かれた絵が明らかになる。正面から見て左にはヨーロッパのような景色、右には神話をモチーフにしたものであった。どちらも須藤から見たらロボットが描いたのか、人間の画家のものなのかはわからなかった。一方田中はしばらくまじまじと見て、気になるところがあるからと手袋をつけて触った後に口を開いた。

「右。ロボットが描いた絵は右だ」

「ほう、なぜ?」芸人は田中に理由を尋ねる。

「まず、使われている画材だ。右で使われているものはおそらくジェル画材だろう。絵の一部が光でかなり輝いており、そこを触ったら弾力があった。ジェル画材はロボットが扱いやすいためよく使用される。

次に絵の癖なのだが、右の絵の影の濃淡がAR-112のものとよく似ている。

後は気迫だ。右に比べて左の方が力強い印象を受ける。人間にしかできない情緒的な色使いも相まって、描いた人がこの風景を愛していたことがわかる」

なるほど、と納得した後、少し考えてから芸人の口から答えが出た。

「お見事。お兄さん正解!はいこれプレゼントね」

そう言って渡されたのは小包だった。中を見ると3000円が入っていた。

周りにいる人からは拍手を贈られ、一部の人からはお小遣いとして小銭をくれた。田中は満足したのか、その後の昼食は田中が須藤の分までお金を出した。

 数日後、街に用事のある須藤はこの前のパフォーマンスがあった場所を通っていた。パッと道の方を見ると、例の芸人がまた何かの準備をしている。すると芸人のほうが気づいたようで、須藤に話しかけてきた。

「ああ!この前のお兄さんじゃないか!」

「また絵画当てですか?」

「まあね。ところでこの前の絵画当てなんだけど、実は半分間違いなんだ」

「え?」須藤の頭に疑問符が浮かぶ。半分間違いとはいったいどういうことなのだろうか。

「実はあの絵、どちらもロボットが描いたものなんだ。神話モチーフの方はあのお兄さんが言っていた通りジェル画材を使っている。あと描いたロボットもAR-112という今では有名な型のロボットだ。あのお兄さんの言うとおり、濃淡にその癖が出ている」

AR-112は絵画ロボット初期から作られているARシリーズの112号機であり、この型でロボットの絵画技術は完成したという報道があちらこちらで行われた代物だ。

「風景の方は確かに使われているものは水彩絵の具だ。しかし描いているのはCA-6という水彩での描写を可能にしたロボットだ。芸術が好きな人は大体知っているようなそこそこ有名な型だ。つまり、どちらもロボットが描いたもの。まあ、最近のロボットは芸術に慣れ親しんでいる職業の人でも判別ができないくらいだからね。勘違いしても仕方ない」

CA-6という型は聞いたことがなかった。芸術好きなら知っててもよいはずだが、田中がCA-6の話をしていた覚えがなかった。

「それであのお兄さんが片方をロボットと言ったもんだからどうしようか悩んだんだ。答えは間違いではないからね。それで結局正解にしたんだ。

でも周りにいる人はわかってたんだろうなあ。で多分絵画当てではなく絵画当てでイキっているパフォーマンスとして見ていたから、あのお兄さんにパフォーマンス料として小銭を渡したんだと思うよ。

あ、本人にこれを言ったら傷つくと思うからここだけの話ね?」

そんな話が終わった後、用事があることを思い出した須藤は走って目的のところまで行った。

 須藤には芸術がわからない。しかし今回のことで「人間から見て判別ができないものなのに、その上半端な知識で自信ありげに話すと恥ずかしい」ということはわかったようだ。